現実Frommの逃走

人に伝える技術を高めるために色々やってみてます。

死刑制度にまつわる思い出

 

 

同じ高校の人と大学の一般教養を受けていた。彼女は高校時代から可愛いと評判で、女性の名前を挙げるときは安牌として有名だった。従って、彼女と講義を一緒に受けていたのではなく、私が同じ空間にいただけある。

 

いつものように教室の後ろに座ると、その日はたまたま発見することができた。

 

その講義は大教室で行われ、少なくとも100名は学生が出席していたと思う。授業内容は憲法を理解しようというもので、私はどれくらいの人が授業を聞いているのかを理解しようと試みていた。

 

そんな講義の途中で「死刑に賛成の人、手を挙げてください」と講師が挙手を促した。

 

大教室である。誰かを名指ししたわけでもない。加えて、大学生は無気力である。

 

にもかかわらず、一人、また一人と手が挙がっていく。

 

すると、大勢の学生と共に彼女はスッと手を挙げた。

 

背筋が張り、指先までも伸びた、誰よりも美しいと感じさせる姿だった。

誰よりも力強い意思を感じた。

 

ただ、どことなく野蛮さ、見てはいけないものを目撃してしまったような罪悪感に囚われた。

 

「死刑に反対の人、手を挙げてください」と声が聞こえた。

 

考え事をしていたため、出だしが遅れた。しかも、少数派であることを宣言することへの躊躇があった。私はひどくゆったりと手を伸ばした。片方で頬杖を突きながら、もう片方で手だけを伸ばした。

 

そういった葛藤があっても、私より先に挙げている人は5人もいなかった。気になって後ろを向いてみたが、私が少数派であることを知る人間が講師以外にはいないとわかっただけだった。

 

その後の授業は、なんとなく身が入らなかったので適当に聞いていた。

 

もう一度彼女の方を見て、それまでの彼女に抱いていた可愛らしさがすっかり消えてしまったのを確認して、教室を出た。